「a&s JAPAN」最新号より
監視システムのTCO(総保有コスト)
監視カメラシステムの導入や運用にあたり、アナログとIPシステムの選択は大きな分岐点になる。IPは製品単体では割高感があり、大規模市場以外でのメリットを知らないユーザーも多い。しかし運用面なども含め全体で試算すると、IPのほうが費用を低減できる。本稿では、IPシステムの導入から交換までのTCO(総保有コスト)を主題とし、アナログシステムとの比較やIPのメリットを探る。
【a&s JAPAN 2010年5月号(No.16)より】
久保隆太郎
監視カメラシステムでのコスト
「監視システムは、5年、10年と長く使うものなので、初期費用だけでなく、監視システムのライフサイクル全体でのコストを考える必要がある」と指摘するのは、パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社(以下、パナソニック)IPネットワーク事業グループ 統合セキュリティチーム チームリーダーの深澤成政氏。日本ビクター ビジネス・ソリューション事業部 営業戦略部 セキュリティグループ 担当課長の村田俊哉氏も「セキュリティは監視カメラだけではない。セキュリティ全体で予算を考えるべき」と語る。ライフサイクルとは、機器の購入や施工、運用、修理/交換に至るまでの一連の段階をトータルに考えたものだ。監視カメラの導入検討時には、機器購入費や施工費などの初期費用が比較されることがあるが、導入後のメリットやコストまでを試算して検討することが大切である。例えば、機器の電気代や空調などに関わる費用、監視員の人件費や、監視システムを使用するための教育コストなども含めて考える必要がある。

(左)パナソニック システムソリューションズ ジャパン IPネットワーク事業グループ
統合セキュリティチーム チームリーダー
深澤 成政 氏
(右)日本ビクター ビジネス・ソリューション事業部
営業戦略部 セキュリティグループ 担当課長
村田 俊哉 氏
導入時の初期費用
まず導入時にかかる費用について、整理したい。初期費用として考えられるのは、カメラやレコーダ、モニタなど機器の購入費用と、機器設置に必要な工事費だ。
監視カメラシステムには、アナログとデジタル(IP)の2方式があり、施工方法にも違いがある。アナログシステムの場合、カメラとレコーダはそれぞれケーブルで接続する。例えば20カ所にカメラを設置する場合には、カメラ20台とDVR(デジタル・ビデオレコーダ)をそれぞれ接続する必要がある。一方、IP方式の場合は、PCのLANと同様にハブを使って分岐させることができるため、NVR(ネットワーク・ビデオレコーダ)とカメラを別々のケーブルで接続する必要はない。このため、IPシステムでは、設置工事の際にケーブルを引き回す手間が省け、その分費用も抑えられる利点がある。
また、対応チャネル数もアナログシステムでは重要になってくる。チャネル数は、DVRが何台のカメラを接続できるかということで、DVRに搭載された端子の数と等しい。対応チャネル数は4台、8台、16台などが主流である。先ほど挙げた20台という台数のように、これらのチャネル数をカメラ台数が超えた場合は、別途DVRを用意する必要があり、多チャンネルの場合は特に、IPシステムが有利だ。逆にカメラ台数が16台以下の小規模システムでは、アナログシステムのほうが、価格メリットがあることも多かった。
しかし、アナログ同等の価格で高機能なIPシステムを普及させようとするメーカーの動きもあり、この位置づけも変わりつつある。パナソニックは、今年3月、同社IP監視システムの第三世代i-PRO SmartHDシリーズを発表した。プラットフォームの共通化などにより、一般的にこれまで16台と言われていたアナログとデジタルのコスト分岐点をそれ以下にし、マンションなどの小規模台数のユーザーもIPシステムを導入して、機能的なメリットが得られるようにした。パナソニックの深澤氏は「大規模はもちろん、小規模台数での利用でも、アナログ同等、あるいはそれ以下の費用でデジタルシステムを利用できるようにしたい。さらにアナログにはできない機能をデジタルで実現させたい」と語る。IPカメラの導入で、設置費用が大幅に削減できた例もある。日本ビクターの村田氏は、「屋外駐車場で、メガピクセルのIPカメラを導入することで、アナログカメラよりも広い範囲をカバーできるようになり、カメラ用専用のポール設置も不要になった。結果的にアナログと比較して初期費用が3分の1で済んだ例もある」と指摘する。
運用時のランニングコスト
次に、設置後の運用段階における費用について考える。運用開始後に必要になってくるのは、保守契約費用や機器を利用する人員の費用、機器の電気代などである。また、故障した際には、交換パーツ代や工賃などが必要になってくる。
こうした運用時のコスト負担を削減するためには、アナログよりもIPシステムを選択したほうが良い。その理由としては、IPによる遠隔監視、集中監視の活用やインテリジェンス機能、設置の柔軟性や省電力性能などがある。遠隔監視の利用については、拠点ごとの監視から一括監視にすることで、監視人員を削減して人件費を減らすことができる。また、インテリジェンス機能については、これまで人間の目で行っていた監視をシステムで行なうことで、警報発報時のみモニタを確認すればよくなり、空いた時間を他の仕事に専念できるようになる。設置については、デパートや倉庫などで季節ごとにカメラの位置を変えたり、台数を増減させたりしたいという場合も、IPシステムであればカメラとハブを接続するだけなので、配線をやり直す手間も、費用もともに省ける。
省電力性能については、新しい製品のほうが電気代は安く、古い製品を使い続けるより買い換えたほうが安くなる。消費電力を削減することにより、電気料金の負担が減るだけでなく、発熱量が減るため、空調設備の稼働も少なくて済む。
各メーカーは、省電力化に向けた製品開発を行っている。例えば、MOSセンサーや独自のUniPhier(ユニフィエ)プラットフォームを採用したパナソニックの第三世代i-PRO SmartHDシリーズでは、従来比50%もの消費電力削減を実現した。「PoE受電に対応したi-PRO SmartHDシリーズを使用すると、システムの総消費電力と発熱量を抑えることができる」とパナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 IPネットワーク事業グループ 統合セキュリティチーム 主事の伊達純治氏は語る。パナソニックでは、レコーダに接続の監視モニタを、レコーダの使用状況に応じて、液晶モニタの表示輝度を下げるモニタバックライト制御機能を採用、省電力化に向けた取り組みを行っている。また、ソニーはテープライブラリに対応するシステムを提供している。これはハードディスクに保存していた映像データを、一定期間の経過後にテープ(LTO)に自動的に移して保存するというものだ。「2009年頃からカメラの高画質化により、データの大容量化が進んでいる。VGAに比べるとHD720pで3倍、1.3メガピクセルだと4倍のデータ量になる。2年保存が求められている金融機関などで、全てをハードディスクに保存するよりも、テープに移したほうがよい」とソニービジネスソリューション バリュー・クリエイション部門 ソリューションマーケティング部 コミュニケーションプロダクツMK課 シニアマーケティングマネージャーの野村幸司氏は語る。テープはデータの長期保存に使用されるメディアで、信頼性は高い。また、テープを取り外しておけば、その分の電力も不要になる。

(左)パナソニック システムソリューションズ ジャパン IPネットワーク事業グループ
統合セキュリティチーム 主事
伊達 純治 氏
(右)ソニービジネスソリューション バリュー・クリエイション部門
ソリューションマーケティング部
コミュニケーションプロダクツMK課 シニアマーケティングマネージャー
野村 幸司 氏
運用期間と償却期間
アナログとIPシステムの運用期間の差はないのだろうか。日本ビクタービジネス・ソリューション事業部 営業戦略部 セキュリティグループ 担当課長の新木健治氏は、「IPカメラも、アナログと同等の使用環境を想定し、設計、製造している。アナログとIPで耐用年数に差はない」と語る。

(左)日本ビクター ビジネス・ソリューション事業部 営業戦略部
セキュリティグループ 担当課長
新木 健治 氏
監視システムの運用期間は、リース契約期間や減価償却期間などにもよるが、5、6年で試算するケースが多いようだ。リース契約の終了や、償却できたタイミングで、監視システムを入れ替えたり、追加したりするケースが多い。
保守とリース契約の現状
その他システム導入後の運用で、定期的なメンテナンスや故障時の対応を行うため、保守契約を用意するのが良い。保守契約は、年間一定額を支払えば故障時にもそれ以外の費用負担が不要となる。
しかし、保守契約を結ぶユーザーは多くないようだ。「日本では保守契約の文化があまりない」とソニーの野村氏は指摘する。同氏は「日本での契約率は上がりつつある」としながらも「検討しても、最終的にはサービスを選択しないユーザーが多い」と語る。この背景には、不況の影響で少しでも支払いを少なくしたいというユーザー側の願いがある。しかし、実際にはライフサイクルの長い目で見ると、保守契約を行ったほうが安くつく。保守契約を行ったほうが、保険と同じで長い目で見ると安心できる。
リースを選択するユーザーは、比較的小規模で、リース期間は5年であることが多く、現状ではアナログのユーザーが多いようだ。マンションなどの小規模市場をターゲットに、監視カメラシステムの販売、施工、運用を行っているケービデバイスでは、昨年より「あんしん保証パック5」「同7」のサービスを開始した。これは、リース契約で監視システムを導入し、さらに5(7)年間、機器の保守メンテナンスを行うものだ。同社代表取締役の高杉政一氏は、「何年か運用しているとHDDなどが故障する場合があるが、その頃にはメーカー保証は切れており、ユーザーが高額な修理費用を負担する必要があった。監視カメラシステムのライフサイクルでかかるユーザーの予想不能な費用負担を無くすためのサービスを開始した」と語る。同氏によれば、リース会社の金利増減のリスクはあるが、現状では総額100万円の場合、リース金額は、7年間で月額14,000円台、5年間で月額19,000円台の負担で、機器・工事・フルメンテナンスサービスを包括したリースプランを提供することにより、費用の見える化が実現したという。さらに同社は、同サービスの期間終了後に、「もったいない」をキーワードにリース金額の約半額で、最初の契約期間が1年間のレンタル契約を締結することで監視システムの運用保守を継続し、以降1ヶ月単位で自動更新となる「グリーンエコプランα」サービスも開始する予定だ。このサービスは機器の寿命が尽きるまで同社がフルメンテナンスを行い、使用不能と同社が判断するまで契約が延長できる機器の使用権を付与するプランである。
パナソニックの伊達氏は「新しい機能を求める場合には、償却期間の終了を機にシステムをリニューアルするユーザーもいる。また、部分的にIPカメラを導入するケースもある」と指摘する。例えば、店舗のレジ用のカメラを高解像度のIPカメラに更新し、紙幣を識別できるようにする場合などだ。

(左)ケービデバイス 代表取締役
高杉 政一 氏
(右)ケービデバイス 東京営業所 所長
高杉 政臣 氏
同社東京営業所長の高杉政臣氏は、「当社が導入するユーザーは、小規模なことも多く、IPの機能性よりも、費用を重視しており、アナログを選択するケースはまだ多い。今後IPの値段が下がれば選択肢にも入るだろう」と語り、価格によっては今後、IPが小規模市場でも導入されていくと指摘する。続いて、「アナログのような施工と設定のしやすさも重要なポイントになる。従来施工している工事業者でもIP監視システムを扱えるように簡易になることが必要」と語る。
アナログにはないIPの利点
製品単体で比較を行った場合は、特殊な用途を除き、アナログカメラやDVRのほうが、IPカメラやNVRよりも安いことが多い。しかしこれは、需要と供給のバランスの問題であり、今後IPカメラやNVRの生産が拡大すれば、価格も逆転する可能性がある。
監視システム導入にあたっては、冒頭で述べたように、ライフサイクル全体で試算する必要があり、導入時には工事コストなども、また運用時の人件費の削減効果なども含めて考えるべきだ。その場合、アナログよりもIPシステムを選択するほうが効果的である。さらに、IPシステムには、アナログと単純に比較できないIPならではの利点もある。
「例えばIPシステムの場合、映像の検索性能が向上するので、目的の映像を検索する作業時間も軽減できる」とパナソニックの伊達氏は指摘する。頻繁に検索する場合には、オペレータの負担も軽減でき作業効率も向上する。その他にも、同社はIPシステムの設定におけるユーザインタフェースを改良。IP自動設定や直感的操作ができる環境を提供することで、システムに対する習熟度が向上することも一つの利点と言える。
他には、カメラ側で一定時間の映像データを保存するエッジストレージという技術もコスト削減に貢献する。ソニーの野村氏は「カメラ側にもデータを蓄積することで、回線障害時でも、映像が途切れないような使い方ができるが、必要な時だけ映像を送る使い方もできる」と語る。インテリジェンス機能により、侵入を検知した時だけなどに録画するようにすれば、レコーダの容量やネットワーク帯域を圧迫することもない。同氏は「こうした仕組みを利用すれば、必要時だけセンター側に映像を保存し、さらに警備会社に駆けつけてもらうといったクラウドサービスのような監視システムも今後あり得るのではないか。現在は転換期、今後数年で大きく変わるだろう」と展望を語る。
セキュリティの全体で試算する
今回の取材を通じて、TCOの試算は機器単体でなくトータルで考えるべきだと感じた。IP監視システムには、省線化や増設や移動の柔軟性による工事費削減、遠隔監視による運用や他システムとの連繋などによる人件費削減など、セキュリティ全体でのTCO削減効果がある。こうした点も考慮して、監視カメラシステムの導入検討を行うべきだろう。
ネット回線利用時のコスト課題と解決法
遠隔監視の課題
インターネット回線を利用すると、監視カメラの映像を遠隔地で確認、遠隔地からカメラをコントロール、複数拠点の映像を一カ所で保存することなどが可能になる。これはアナログシステムにはないIPシステムのメリットのように言われることもあるが、IPカメラやNVR(ネットワーク・ビデオレコーダ)だけでなく、ネットワーク端子を備えるDVR、ビデオエンコーダなどでも利用できる。
監視システムをインターネットに接続する際には、インターネット回線事業者との契約、プロバイダとの契約が必要になる。また、遠隔地からカメラやレコーダへのアクセスを可能にするには、固定IPアドレスの契約が必要になる。複数の拠点を持つ場合、拠点ごとにこれらの契約を行う必要があり、運用コストを削減したいユーザーにとって、回線費のかかる遠隔監視の利用は、難しい課題だ。
ISPの賢い選択
ユーザーが工夫することによって、回線費用を下げることができないのか、この点について、インターネットプロバイダ(ISP)のASAHIネットを取材した。朝日ネット マーケティング部 部長の村田真之介氏は、「監視カメラの運用コストを、回線費用の面から低減させたい。他社よりも良い品質でありながら低価格なのがASAHIネットの強みだ」と語る。
監視カメラシステムをインターネット経由でつなぐ場合、各拠点のルータに固定IPアドレスを割り振り、後はIPマスカレード機能で各IPカメラにアクセスする方法が一般的だ。拠点ごとにインターネットの接続契約と固定IPアドレスが1つ必要になる。ISPによって、これらの契約形態、値段は異なっている。例えば、オプションで固定IPアドレスを任意で追加していける場合と、固定IPアドレスの個数別に契約コースを変更する場合などがある。この差により、ISPの選び方かによっては、1回線あたり年間最大10万円の差が生じることもある。
ASAHIネットの場合、Bフレッツと固定IPアドレスを1年間利用した場合、22,680円で、他社と比較して1/3〜1/5の料金となっている。この理由について村田氏は、「システム開発や運用保守を内製化して効率化を図り、テレビCMなどの大きな宣伝を行わずに、サービスを適価に提供できるようにした。結果的に他のISPよりかなり低い料金水準となっている」と胸を張る。同じNTTの回線を使うのであれば、料金の安いISPを選び、浮いた予算を他の目的に使うのも一つの方策だ。

(左)朝日ネット マーケティング部 部長
村田 真之介 氏
(右)朝日ネット マーケティング部 営業グループ
高橋 愛友美 氏
ISP乗り換えでコスト削減
同社マーケティング部 営業グループの高橋愛友美氏は、アミューズメント系企業ユーザーの例を事例として紹介する。高橋氏は「このユーザーは各店舗に設置したゲーム機器の通信や、店内の監視カメラ映像などの送信に、フレッツ網と固定IPアドレスを利用していた。他のISPからASAHIネットに乗り換えることで、ISP費用が大幅に削減できた」と自信を見せる。
日本は通信費が高いと言われることもあるが、正確に比較し賢い選択をすることで、費用を最低限に抑えることができる。またモバイル回線では従量性の料金制度が主流となっている。IP監視カメラのインテリジェンス機能を活用して、必要な時に解像度を高めたり、必要な映像データのみを送ったりすることで、回線コストを低減することが可能になる。
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