「a&s JAPAN」最新号より
アナログからIPネットワークシステムへ移行の過渡期(1)
監視システムではIPカメラの新規導入が進んでいる。しかし、小規模分野や特殊な分野ではアナログカメラがまだ活用されている。これまで運用していたアナログカメラによるシステムをどのタイミングでIPに変更すべきなのか、また変更することによるメリットとデメリットは何か、各社に取材した。
【a&s JAPAN 2010年3月号(No.15)より】
久保 隆太郎
監視カメラのインテリジェント化とIP化
監視カメラは、監視の用途だけでなく、教育やマーケティング、生産管理などの目的でも活用され始めている。例えば作業風景を録画し、良い例や悪い例を研修生に見せれば、高い学習効果が期待できる。また、店舗内に設置したカメラによって、客の動線を分析すれば、商品の効果的な配置を検討できる。さらに、生産ラインを分析すれば、作業の無駄や危険などを発見でき、作業を効率化し、安全な環境が構築できる。その一例として、パナソニックでは、工場の生産性向上ソリューション(工場見える化システム)や車両ナンバー認識システム、店舗などでの動線分析システムなど、監視カメラ映像の様々な提案を行っている。
こうした用途のために必要となるのが、既存アナログシステムからIPシステムへの移行、新規導入である。もちろん、アナログ環境でも実現できないことはないが、遠隔地でリアルタイムに映像を確認して、分析に利用するというような場合には、IPネットワークを経由する必要がある。また、用途によって臨機応変にカメラ位置を変更しようとするなら、カメラとレコーダーを同軸ケーブルで個別に接続する必要があるアナログシステムより、ハブを使って接続数を増やせるデジタルシステムのほうが配線も簡単にでき、コスト面でも有利だ。
しかしIPネットワークを利用するデジタル監視システムと言っても、様々な構成パターンがあり、それぞれにメリットとデメリットがある。まずは、全体像を確認する意味でも、アナログとデジタルの監視システムについて、構成機器を挙げて紹介する。
最もアナログ的なシステムは、複数のアナログカメラをスイッチャー(マルチプレクサ)により統合し、タイムラプスビデオやモニタと接続する方法である。録画媒体はビデオカセットテープで、データはすべてアナログである。次に、録画部分のみをデジタルにしたのが、DVR(デジタル・ビデオ・レコーダー)を使ったシステムだ。スイッチャーとタイムラプスビデオを、DVRに置き換えたもので、PCのようにハードディスクを使用する。タイムラプスビデオで必要だったテープ交換の手間やテープの劣化、頭出しに時間がかかるなどのデメリットを改善し、LAN端子を備えるDVRでは、ネットワーク経由でも映像を確認できる。
DVRは、4チャネルや8チャネル、16チャネル用などがあり、アナログカメラとそれぞれ同軸ケーブルで接続する。これにIPカメラも接続できるようにしたのがハイブリッドDVRだ。IPカメラはネットワーク(LAN)端子で接続する。そして、IPカメラ専用のレコーダーがNVR(ネットワーク・ビデオ・レコーダー)である。DVRのような専用機タイプのものもあるが、ソフトウエアをPCやサーバーにインストールし、外部ストレージに映像を保存できるタイプのものもある。
また、アナログカメラで撮影した映像をデジタル変換し、ネットワーク上に流して表示したり、NVRなどで録画したりできるようにする機器が、ビデオエンコーダーである。
アナログとデジタル(IP)の導入コスト
IPカメラやビデオエンコーダー、NVRなど、多くの製品がリリースされており、新規の導入ではIPが選択されるようになってきている。しかし、既設の割合ではIPカメラの比率はまだ2割程度と言われている。とりわけ小規模な市場では、新規に導入する場合でもアナログの比率がいまだに高い。その背景にある大きな理由がコストだ。
新規導入コストについては、特に小規模市場では安価なアナログカメラとDVRとが主流で、アナログが優勢だ。予算が限られていて、「とりあえず映っていて安ければよい」というような、小さなマンション防犯用途のような場合には、そうしたアナログシステムの導入が多いようだ。

デジタルマックスジャパン 事業本部長
遠山尚孝氏
デジタルマックスジャパン事業本部長の遠山尚孝氏は「企業では小規模でもIPカメラの導入が増えているが、アナログシステムの価格が下がっているために、マンションなどでアナログカメラを選択するケースも多い」と語る。ネットカムシステムズ代表取締役の金延純男氏も「特に小規模案件では、まだアナログシステムも多いと感じる」とコメントする。しかし中~大規模案件では、「設計段階からIPになっており、今後2、3年以内に、中規模以上の案件ではほとんどIP化されるのではないか」と同氏は分析する。
大規模でもIPの導入が主になっている。大規模監視カメラシステムの設計、施工に携わる清水建設エンジニアリング事業本部上席エンジニアの松崎正利氏は、「光ファイバーなどで監視カメラの回線を一本化できるので、IPのほうが敷設の手間がかからない」と指摘する。IPにすれば、入退管理やビル、オフィスオートメーションなどと連動させることも容易になるメリットもあり、金融機関などで需要が高い。一部、暗所や明暗の差が大きい場所など、アナログカメラが得意とする特殊な用途では、エンコーダー経由でアナログカメラを使用するとのことだ。その場合、1チャネル対応の小型のエンコーダーをハウジング内に入れて利用する。

清水建設 エンジニアリング事業本部
情報ソリューション本部システム計画部 上席エンジニア
松崎正利氏
IP化のコストについては、「大規模ではコストは同程度か、IPのほうが若干安くなることが多い」と指摘するのは松崎氏。パナソニックも「先進国では、新規案件はIPが主流」と評する。さらに、「新興国でも大規模案件を中心に、IP市場が確実に拡大している」と付け加えた。
アナログとIPのシステムでは、コストの内訳は異なるので、単純に比較はできないが、同一条件で比較した例として、アクシスコミュニケーションズが、自社のWebサイトにてドキュメントを掲載している。これによれば、監視カメラ40台規模の新規導入の場合、IPシステムのほうが若干安くなると算出がされている。
アナログにはないデジタル(IP)のメリット
アナログカメラと同じ粗い解像度で録画し、必要時のみ映像を確認するような用途であれば、アナログとIPのメリットの差はさほどない。単純にコストで決めればよいだろう。しかし、プラスアルファの部分を考えると、IPのほうにメリットがある。教育やマーケティングなどの用途など、録画映像を監視以外に副次的に利用する用途では、IPのほうが優れている。"コストが安いからアナログにしよう"といった安易な選択をしてしまうと、後々、映像の活用で困ることになりかねない。
ネットカムシステムズ金延氏は、「保守性や拡張性、画質・性能などの点で、IPネットワークシステムがアナログシステムに勝っていることは間違いなく、単なるコスト比較はできない」と語る。さらに「今後アナログシステムは減少していくだろうから、そうした製品を導入するよりも、今後増えていく技術(デジタル)の商品の導入をお勧めしている」と付け加えている。

デジタルマックスジャパン セキュリティ事業本部
01Security統括部 営業課
川辺大氏
マーケティング用途などでの活用で、IPネットワークシステムの導入に興味を持つユーザーも多い。しかし、こうした非セキュリティ分野での活用は、歴史が浅く、情報が少ないのも事実。「マーケティング用途などで、画像解析について相談してくるユーザーもいるが、事例が少ないのが残念だ」とデジタルマックスジャパン セキュリティ事業本部01Security統括部営業課の川辺大氏は語る。
IP化の他のメリットとして、配線や設置の簡素化が挙げられる。アナログシステムの場合、カメラとレコーダーを個別に接続する必要がある。一方、IPネットワークシステムの場合、ハブなどから複数のカメラへの接続が可能になるので、配線の工数を削減できる。大規模システムの場合に、アナログよりもIPシステムが安いと言われるのは、このためだ。
アナログからIPへの移行方法
前述したように新規導入の場合はIPが主流となっている。しかし既存のアナログ資産を持っていた場合、どのようにIP化していけば良いのだろうか。この点について各社に話を聞いた。
サンシステムサプライ代表取締役の岸尚弘氏は、「移行期には、アナログを残して局所的にIPにする期間が出てくる。この期間では、コンバーターなどを使わずに、DVRの置き換えとして稼働できるハイブリッドDVRが必要になる」と語る。これまでアナログカメラを設置していたコンビニエンスストアの場合などで、カメラ未設置だったバックヤードや金種判別が必要なレジ周りに高精細のIPカメラを設置したいという要望があるそうだ。DVRを置くスペースしかないので、同じスペースに置けるハイブリッドDVRでないと難しいという。
移行時に懸念材料となるのが、やはりコストである。ネットカムシステムズ金延氏は、「予算があれば一括移行を勧めている。しかし、予算が厳しい場合は、ビデオエンコーダーを利用することで、既設のアナログカメラをIP化するなどの選択肢も含め、提案している」と語る。また、清水建設松崎氏は、「アナログカメラをリプレイスする場合は、故障や耐用年数を迎えた時」と語る。まだアナログシステムのみを使用し、IPネットワークの工事を行わない場合は、SD(アナログ)出力が可能なIPカメラに交換し、IPネットワークの準備ができた時点で出力先を変更するというような工夫を行っているユーザーもいるようだ。

アクシスコミュニケーションズ
ストラテジックパートナー営業本部
キーアカウントマネージャー
砂川亮氏
ハイブリッドDVRへの変更や、ビデオエンコーダーの導入などで、既存のアナログ資産を生かす方法もあるが、IP専用で別の監視システムを構築するケースも意外と多いようだ。アクシスコミュニケーションズ ストラテジックパートナー営業本部キーアカウントマネージャーの砂川亮氏は、「移行期にアナログとIPの2つのシステムを運用するユーザーもいる」と語る。アナログと無理に融合させようとするよりも、別のシステムに置き換えていったほうが、煩雑でなくてよいという考えだ。
一括したIPへの変更は、古いビルでアナログ監視システムが入っているような場合に、大型テナントの入れ替え時に行われるケースもある。特に、東京の赤坂や六本木、大手町周辺のビルで、外資系の金融機関がテナントに入る際にこの傾向があるようだ。ビルオーナーはIP監視システムを導入することで、ビル自体の付加価値を上げることができ、賃料も上げることで導入費用を回収できるというわけだ。
カメラはアナログのまま、回線や録画側をIPに交換するケースもある。ネットカムシステムズ金延氏は、「アナログカメラがまだ新しい場合は、既設のアナログカメラをエンコーダーで取り込み、新設はIPカメラで行うケースがある」と語る。さらに、「小規模から中規模まで機器構成がシンプルな場合、ハイブリッドDVRも利用されるが、中規模以上でフロアマップを表示したり、統合コンソール的に使用したい場合は、録画サーバーと録画ソフトウエアの組み合わせを推奨している」と語った。
(「アナログからIPネットワークシステムへ移行の過渡期(2)」へつづく)











