「a&s JAPAN」最新号より
九州地域のセキュリティ市場
古くから海外との交易が盛んで、現在も貿易の拠点となっている九州地域。海外との盛んな交流や、本州と海で隔てられていることなどから、独特の文化圏を形成している。九州新幹線建設で変わろうとしている九州地域で活躍するセキュリティ企業を取材した。
【a&s JAPAN 2010年 1月号(No.14)より】
久保 隆太郎
九州地域経済の現況

ロックマンジャパン 東京営業所所長
永田寛氏
九州地域は、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県の7県で構成している。九州の面積や人口、GDPはともに日本の約10分の1で、日本全体の10%程度の市場規模であることがわかる。
九州の中心は福岡県の福岡市や北九州市である。東京や大阪、名古屋に次ぐ都会であることからも、犯罪発生率は全国で4位前後と高い。このため、博多などの都心部のマンションでは、東京や大阪と同様にオートロックや防犯カメラなどを設置しており、セキュリティ意識が高いことがうかがえる。
また、九州は、韓国や中国などと近いことから、自動車産業など九州に工場を持ち、貿易の拠点として利用する企業も多い。
これらのことから、九州地方のセキュリティ市場が日本全体の10%程度の規模だと推測できそうだが、実際にはそれ以下である。この理由の1つとして、大規模案件の場合、東京本社などで契約および決済が行われてしまうことがある。
「大口案件は東京で決めてしまうことがほとんど。それだけに東京に営業所を持つ意味は大きい」と語るのは、鹿児島県に本社を持つロックマンジャパン東京営業所所長の永田寛氏。同社は、ブランクキーや電気錠、非接触カード読取機などのベンダーである。同氏は、セキュリティ市場を、AからDまでのランクに分けて分析する。Aランクは、官公庁や大企業が入札などによって行う大規模な市場である。「金額は大きいが、既にセキュリティを導入してあり、案件が出た場合も取り合いになり、セキュリティ企業も体力を消耗してしまう」と語る。Dランクは一般消費者の市場で、この市場に普及してきているのが火災報知器である。BからCまでのランクは中小規模のオフィスやマンションで、「この市場で細かい仕事を受注するのが大切。代理店には、1年後の仕事よりも1週間後の仕事を提案している」と同氏は語る。小規模なものでは、4chのカメラとレコーダーで施工費含めて20万円程度で収める必要があり、コスト的に厳しい案件も多いと言う。
ロックマンジャパンのように、九州に本社を置く企業も、その多くが東京に支社を持っている。その理由のほとんどは、東京で決済が行われることが多いためだ。これは、近畿や中部地域でも同様で、東京の決済に漏れたものが現地で発注されるものとなるとのこと。「九州地方は全国の10%程度の規模があるのかもしれないが、東京での決済を抜くと、数パーセント程度の規模でしかないのではないか」と永田氏は分析している。
九州は密航や密輸対策などの重点取締地域だが、もちろんこうした国防の分野についても、東京の大手企業が受注し、地元企業には保守運用程度の利益しか入らないといった事情もある。
老舗企業のチャレンジ
九州は老舗企業が多いと言われる。老舗企業の特徴の1つに創業当時から行ってきた事業を大事にする性格がある。一方、東京の企業は原型をとどめず、自由に変形していく。特に技術革新が目まぐるしいITの分野では、1つの事業に固執せずに柔軟に変化し対応していくことが成長の秘訣であると言われている。そのため「九州に本社のある企業は老舗が多いから成長が厳しい」という地元の声もある。


ニシム電子工業 サービス推進本部
カーシェアリングビジネス推進部長
中島哲也氏
しかし、中核事業からビジネスを発展させている企業もある。その代表例がニシム電子工業である。同社は九州電力の子会社で、同電力のネットワーク工事や運用保守を行う企業だ。停止が許されないライフラインである電力供給の監視システムでの経験を生かして開発したサービスが「Megakiku(メガキク)」である。メガキクは、ブロードバンド回線や携帯回線を利用して、ネットワークサービスや、デジタルサイネージサービス、サーバー監視、画像監視、カーシェアリングなどのサービスを提供するものだ。カーシェアリングのサービスでは、車の予約状況や返却状況がインターネットでわかり、車の鍵を無人で管理することもできる。プラグインハイブリッドカーの場合、充電ケーブルを挿入しないと鍵を返却できないようにすることも可能だと言う。同社サービス推進本部カーシェアリングビジネス推進部長の中島哲也氏は、「ネットワークの構築や運用保守が主な業務だったが、それに加え、様々な分野でもコンサルティング段階から始めることで、業績を安定させたい。メガキクはその良い例だ」と語る。ちなみに同社の場合、東京支店を官公庁や携帯通信事業者などの営業窓口としてだけでなく、放送局や銀行用の特殊なUPS(無停電電源装置)の提供窓口としても位置づけている。
個別市場の動向
2009年の世界金融危機の影響を受けて、日本の貿易取引は大幅に減少し、日本の経済は冷え込んでいる。しかし回復の兆しを見せているところもある。博多に本社を置くファブレスメーカーの日本防犯システムだ。同社は、屋外向けの赤外線暗視カメラを中心に製品を供給している。同社営業部統括部長兼関東エリアマネージャーの西山智史氏は、「ようやく自動車業界で回復の兆しが見えてきた。工場の新規建設という話も聞く」と語る。工場ではPTZ(パン/チルト/ズーム)カメラを設置することで台数を少なめにする傾向がある。また法令遵守の関係で、本社と同様に工場でも入退管理を実施している事例が増えている。「人の目が届かないような部分で、労務管理目的で監視カメラを導入する例も増えている」と同社営業部課長の今村貴志氏は付け加える。

(左)日本防犯システム 営業部統括部長 兼 関東エリアマネージャー 西山智史氏
(右)日本防犯システム 営業部課長 今村貴志氏
また、スーパーマーケットなどの小売業について、「設置していたカメラのリプレイス案件が増えている。新規でカメラを設置する例も増えてきたと感じる」と大野城市に本社を置くNSSの本社法人営業部部長の枝田知英氏は語る。地域としては、鹿児島や宮崎など、規模は20~30台でのカメラ設置が増えている。「カメラによって、お客様が安心感を得られるようになったためではないか」と同社本社製品部の水倉輝美氏は付け加える。

(左)NSS 本社法人営業部部長 枝田知英氏
(右)NSS 本社製品部 水倉輝美氏
導入規模については、「4チャネルのレコーダーが圧倒的に多く、九州では小口が伸びている」とNSS枝田氏は語った。日本防犯システム西山氏も「九州は4チャネルが中心。小売店やオフィスに4チャネルを段階的に入れるケースもある」とコメントした。
また、マンション分野では、新築マンションは不況影響がまだ根強く着工が少ない。既存マンションでは、大規模修繕を期に監視システムをリプレイスする案件が増えている。中心部のマンションでは、インターネット対応のマンションが増えたことで、IPカメラへの変更もあるが、アナログカメラでのリプレイスがまだ主流となっている。一方、金融機関の場合はIPカメラへのリプレイスが多い。
ホームセキュリティ分野では、中心部ではオートロックが当然のように導入が増加しているが、ドアに鍵をかけない郊外部では導入はまだ先のようだ。これは九州地域だけでなく、日本全国で共通した状況だろう。
その他、交通分野では、駅に設置の監視カメラ台数が東京や大阪と比較すると圧倒的に少ない。その一方、西鉄バスでは、ドライブレコーダーをいち早くバスに搭載している。また、街頭に監視カメラを設置する動きもある。九州一の歓楽街である中洲では安全な街づくりを目指し、国と福岡市そして地元の自治組織(中州町連合会)が共同で、2008年春に15台の監視カメラを設置した。
IP化増加の流れ

R.O.D 福岡営業所所長 山科和也氏
監視カメラのアナログとIPの比率について各社に話を伺った。九州に限らず言えることだが、ロックマンジャパン永田氏は「地方に行けば行くほど、IPカメラの設定や保守ができない業者が多く、アナログの比率が高い」と指摘する。ユーザーがIPカメラに興味を持っていても、業者が対応できないためにアナログカメラを採用するというケースもある。
「IP化最大のメリットはメガピクセルカメラ。1、2年後にIP化が加速すると確信している」とNSSの枝田氏は語る。同社はカメラに先行してNVRを発売している。
また、日本防犯システムも今年からハイブリッドレコーダーを市場に投入した。「まだアナログが8割。逆転するのは、地デジに完全移行する2011年以降だろう。その頃にIP対応で安価な赤外線暗視カメラを提供したい」とIPカメラについてコメントした。
R.O.D福岡営業所所長の山科和也氏も、IP化に大きな期待を寄せる。「以前はアナログとIPカメラの比率が9:1程度という実感だったが、ようやく8:2程度になったと感じている」と語る。同氏は以前、CCTV(アナログ)カメラを販売していた経験もあり、「アナログカメラはカメラ単体でも売れたが、IPカメラはシステム全体で提案する必要がある。運用保守に至るまでサポートできるメーカーでないと売れない」と語る。また、「NVRだけでなく各社のカメラもあわせてサポートすることが不可欠」とも語る。IPカメラの比率が1から2に増加したことを捉え、「つまり2倍になった。特殊な分野を除きIP化の比率が高くなるので、成長市場として九州は魅力的」とも語る。
セキュリティ市場の可能性
東京や大阪と比較して、IP化はこれからといった九州地方だが、直近で一番のイベントといえば、九州新幹線の開通である。2004年に新八代・鹿児島中央間が開通しているが、2011年3月に全線開通の予定だ。博多から鹿児島中央間を最短で約1時間20分、新大阪から鹿児島中央間を約4時間で結ぶことが可能になり、経済が大きく変わることが予想される。
九州新幹線の全線開通に合わせてオープンするのが、1日35万人が利用する九州最大のターミナルの博多駅のあるJR新博多駅ビルだ。地上10階、地下3階、総工費700億円という大規模なもので、九州初出店となる阪急百貨店や東急ハンズのほか、約200店が出店する予定。
博多駅周辺の開発が進み、九州への企業進出によるオフィスの増加、新幹線周辺駅での大型マンションの建設によるセキュリティ市場の活性化が予想される。
その他、九州を活性化させようとする企業の動きもある。日本防犯システムは、これまで海外で行ってきた製品組み立ての拠点を、九州に移すことを検討中だ。「メイドイン九州」のブランドで製品を提供することにより、地域の活性化を狙う。「2011年に新幹線が開通すると、福岡の企業が九州の田舎にも進出して、地方の経済が苦しくなるのではないか」という業界関係者の懸念もあるが、これから数年間は九州地域が注目すべき地域となりそうである。(終)











