「a&s JAPAN」最新号より
東海地方のセキュリティ市場
日本が世界に誇る製造業の拠点が多いのが、愛知県、静岡県、三重県、岐阜県からなる東海地方だ。全国県民所得では愛知県が2位、静岡県が3位と高水準にあり、戸建て比率も高い。それでは東海地域のセキュリティ市場はどうなのか、同地域に本社を置く各メーカーに取材した。
【A&S JAPAN 9月号(No.12)より】
久保隆太郎
製造業が多く存在
東海地方は日本経済を支えるモノ作りの拠点が多い地域だ。「日本の統計2009」(総務省統計局)によると、愛知県の製造業事業所数は東京都、大阪府に次ぎ3位となっているが、従業者数でみると、愛知県94万人、東京都90万人、大阪府73万人と愛知県がトップとなっている。愛知県の人口は東京都の2分の1以下であることを考えると、愛知県では製造業に従事する割合が圧倒的に多いことがわかる。
東海地方を代表する産業は言うまでもなく自動車産業である。豊田市に本社を置くトヨタ自動車をはじめ、本田技研工業や三菱自動車、スズキなどの製造拠点があり、関連工場も多い。その他、航空関連の製造拠点として小牧市に三菱重工、名古屋市内に名電の名称で親しまれている三菱電機の名古屋製作所など多くの企業がある。中小企業も、プラスチックやゴム、鋳造など様々な分野の特定市場でトップシェアを握る企業が多い。
入退管理や監視カメラなどの販売施工を行っているセキュリティメーカーの担当者は、「東海地方は製造工場が多く、オフィスよりは製造工場や港湾倉庫などでの物理セキュリティ導入が進んでいる。内部より外周警備に監視カメラやゲートを設置するケースが多い」と語る。オフィスでの物理セキュリティに関しては、入退システムの利用より出入口でのテンキー錠などによる施錠が圧倒的に多い。「監視カメラ導入は進んでいるが、入退システム普及の遅れなども考慮すると、東海地方のセキュリティ市場は、まだまだこれから」と語る。
こうした東海地方のセキュリティ市場規模はどの程度なのだろうか。東京に本社があり、東海地方に拠点や工場などがある場合、東京本社で導入を決定し、発注することが多い。このため、東海地方のセキュリティ市場規模の算出は難しいが、東京の半分が大阪、さらにその半分が名古屋という見方が強い。
名古屋市内に本社を置く光学機器メーカー大手のエルモ社は、セキュリティ分野では監視カメラの製造および販売を行っている。「製造業をはじめとして、金融や物流、小売り、マンションなどの不動産、駐車場、大学や研究所などが東海地方の主要市場だが、規模的には東京、大阪の次になる」と位置づけている。地域の特徴としては、製造業が多いこと以外に東京や大阪と大差ないと言う。
堅実で実利重視

アイホン 営業本部 販売促進部
部長代理 鶴見育久氏
東海地方とりわけ名古屋の特徴として、名古屋人の堅実で実利を重視する点を挙げることが多い。また、地縁を大切にする地域ともよく言われる。セキュリティは費用対効果が見えにくいこともあり、セキュリティシステムを優先して投資するよりは、必須の部分でセキュリティを確保するという方向性が強い。これは、先に述べた工場の外周警備やオフィスの施錠にも見られるが、住宅へのセキュリティでも同様だ。
「日本の統計2009」によると、2003年の都道府県別戸建数は、東京都160万戸、大阪府134万戸、愛知県130万戸で、共同住宅は、東京都370万戸、大阪府186万戸、愛知県110万戸となっている。東京や大阪は共同住宅のほうが多いが、愛知県は逆転している。さらに、静岡県は戸建てが共同住宅の2倍、岐阜県は3倍、三重県は4倍と戸建て率が高い。名古屋市内に本社を置き、インターホンで日本の約半分のシェアを持つアイホンに住宅のセキュリティについて話を聞いた。
同社営業本部販売促進部部長代理の鶴見育久氏は、「現在は1988年頃のバブル時代に建てられたマンションが築20年を迎える時期で、大規模修繕を機に、カメラ付きインターホンへの置き換えが進んでいる」と語る。インターホンを鳴らした来訪者をモニターで確認してからの解錠行為や、留守中の来訪者を録画して確認できる機能のほか、監視カメラシステムに連繋することで、マンションの入口や駐車場に設置した監視カメラの映像も室内で確認できることなど、さらに安心を高める機能が付加されている。電話線と同様に、インターホン回線も建設時に各戸に敷設しているため、「追加回線工事の手間を省きセキュリティが向上できるのはユーザーにとっても魅力がある」と語る。最先端の「V-fineシステム」では、従来の建物内専用の通話設備に止まらない、休日診療所などの地域情報やマンション管理人や自治会とのコミュニケーション、マンション内の施設予約なども可能になっている。鶴見氏によると、「関東では最新型システムを導入する住宅は多いが、名古屋ではまだ少ない」とのことで、セキュリティ以外の機能も備えた最先端のシステムよりも、セキュリティをポイントに堅実で売れ筋のシステムを選ぶ地域性が現れている。
また、戸建ての場合も同様に、玄関先に監視カメラを別置し、別設備とするのではなく、通話機能のみのインターホンをカメラ付きテレビドアホンに置き換え、さらに監視カメラと連動し、システムを一体化することで工費の削減とセキュリティを確保しようとする動きがある。左右170度と広角に映り、PTZズームで拡大できる機種に人気が高い。
自動車の保有も盗難も日本一

加藤電機 取締役
吉田裕康氏
オフィスや住宅では、最低限のセキュリティを確保する傾向が強い東海地方だが、セキュリティの必要性が高いのが自動車だ。自動車検査登録情報協会によると、2009年5月末時点で、自動車の保有台数は愛知県が495万台と1位で、2位が東京都の450万台、神奈川県、埼玉県、大阪府と続く。前述した人口を考えると、愛知県の自動車保有率は圧倒的に高い。その反面、愛知県は自動車盗難がワースト1でもある。2008年警察庁発表データによると、自動車盗難認知件数は愛知県が4002台、千葉県が3665台、大阪府が3480台となっている。車種別では、2006年はランドクルーザーが6.9%と最も多かったが、2007年には、ハイエースが16.2%と1位となり、1位の車種が占める割合も上がった。
この背景について、自動車盗難防止装置の大手の加藤電機取締役の吉田裕康氏は、「中古車の輸出検査が厳しくなり、盗難車を輸出しづらくなったことが背景にある。その一方で、他の車種と共通部品が多く、パーツとしても転売できるハイエースが盗難対象に代わった」と語る。同社は「HORNET」や「VIPER」というブランドで盗難防止装置を市場に提供しており、累計100万台の販売実績がある。

加藤電機の自動車盗難防止装置「VIPER」
同氏は、「最近の車にはイモビライザーを装備して、乗り逃げ盗難しづらくなったため簡単には盗めなくなったが、その一方で車上荒らしは増加している」と指摘する。車上荒らしの対象となるのは、20~30万円のカーナビである。カーナビの高機能化と一般化により、購入する車のグレードをワンランク下げてもカーナビを装備するユーザーが増えている。カーナビやトランクに積んだゴルフバッグを盗むのに、イモビライザーの有無は関係なく、高級車や軽自動車の区別もない。インターネットオークションなど盗品を売れる環境があるのも、車上荒らしが減らない原因となっている。
こうした事情を背景に、大阪や名古屋など盗難多発地域では盗難防止装置を設置するユーザーが増えているという。盗難防止装置には様々なセンサーがあり、車上荒らしも未然に防ぐことができるからだ。一度盗まれた経験のあるユーザーのほとんどが盗難防止装置をつけるという。「もちろん、盗難保険をかける方法もあるが、保険金が出るには条件があるし、精神的なダメージは大きい。それならば未然に防止策を講じたほうが良い」と吉田氏は語る。
病院の市場でも、患者の安全の確保とサービスの向上として、情報系のナースコールシステムの導入が進んでいる。タッチパネルを備えた画面に、患者の看護情報や治療科目などを表示して、看護師が持つPHSへの呼び出しを行えるシステムだ。センサーにより患者の徘徊を検知し、PTZカメラと連動し映像を確認することも可能だ。「こうしたシステムは、国、県立レベルの大病院には全国規模で導入されているが、市町村レベルの病院で普及が早かったのは東海地方」とアイホンの鶴見氏は語る。
学校向けのセキュリティでは、校門などに設置する監視カメラシステムが代表的だ。学校への導入実績が高いエルモ社によると、「一般的には、設置箇所は4ヵ所程度が多い」とのこと。またインターホンの導入も進んでいる。これは各教室に設置したインターホンを職員室と接続して、緊急時に通報や通話ができるというもの。マンションなどで採用されている非常通報機能付きのインターホンを設置する。「非常通報機能付きだと通話のみならず警報設備としても利用できるので、セキュリティを高められる」とアイホンの鶴見氏は語る。その他、加藤電機が開発する「イルカーナ」はウィルコムのサービスエリアを利用して、子どもの居場所を保護者に知らせるシステムがある。大阪や東京で電車通学をする私学小学生などでの利用が多いという。
NASがIP化に貢献
物理セキュリティでは、監視カメラシステムや入退管理システムを、IPネットワーク経由で他のシステムと連繋しようとしている。東海地方では、まだ実例は多くなく、本格化するのはこれからだ。監視カメラシステム用デジタル・ネットワークカメラとアナログカメラの比率について、エルモ社の担当者は「新規案件でのアナログとデジタルの比率は、7対3~8対2だと感じている。4~5台のカメラを接続するマンションなどでは、新設、リプレイスともにアナログカメラの比率が高い。多店舗展開する小売業などは、遠隔監視への要求でデジタルの利用もある」と語る。IPアドレスをはじめとするネットワーク設定が不要で、接続すれば映像が見えるアナログシステムのほうが、小規模システムでは施工しやすく、費用面で優位にあるのはどの地域でも変わらない。

(左)バッファロー 事業本部 市場開発事業部 NASマーケティンググループ リーダー 松崎真也氏
(右)バッファロー 営業本部 コーポレート営業部 次長 永井新氏
しかし、こうした小規模な利用でもネットワークカメラ利用の兆しが見え始めている。映像管理システムを搭載したネットワークカメラと映像の保存先にNAS(LAN接続型のハードディスク)を利用する方法である。例えば、MOBOTIXのネットワークカメラとバッファローのNASである「TeraStation」を用意すれば、それだけで監視カメラシステムが構築できる。NASは元々コンピューターのデータを保存するために開発されたものだが、ネットワークカメラにソフトウエアを搭載していれば、専用のNVR(ネットワーク・ビデオレコーダー)は不要になる。バッファローは、コンピューター周辺機器の大手メーカーで、名古屋市に本社がある。同社事業本部市場開発事業部NASマーケティンググループリーダーの松崎真也氏は「NVRは専門メーカーが提供しているが価格が高く、カメラ台数が少ない場合はアナログシステムを導入する理由にもなっていた。しかし、TeraStationを利用すれば2TBの容量で、RAID5やHDDのホットスワップ(稼働中に交換できる機能)に対応したものが10万円程度で購入できる。あとは必要台数分のネットワークカメラを買えば良い。デジタルでも導入コストが抑えられる。今後はそうした市場に向けて注力したい」と語る。バッファローはNASのほか、LANケーブルで電源供給も行うPoEに対応したハブなどネットワーク機器も提供している。同社営業本部コーポレート営業部次長の永井新氏は「PoE対応ハブを併用すれば電源ケーブルが不要になるので、アナログ方式よりも設置の自由度は高くなる。今後、システム構築企業による選択が増えてくれば、この分野での利用は拡大する」と自信を見せる。
製造業が多い東海地方は、2008年の世界経済不況で輸出が激減し、影響を最も強く受けた地域だ。全国的に百貨店やスーパーなどの個人消費は減少続きだが、2009年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は、1年3ヵ月ぶりに増加に転じ、年率換算3.7%となった。また豊田市の堤工場で製造するトヨタの新型プリウスは2ヵ月で24万台を受注する勢いで、増産も決定している。さらに2010年には、1610年に名古屋城が築城されてからちょうど400年を迎える。開城400年を記念して、本丸御殿の大規模な復元や様々な催事を予定しており、2010年に向けて東海地方は活気を取り戻しつつある。日本を支える製造業の拠点である東海地方の活性化に期待したい。
【導入事例】 利用台数月間10万台エンゼルパーク駐車場のセキュリティ

エンゼルパーク 取締役社長 伊奈達二氏
名古屋市中区
愛知県は自動車保有率日本一の車社会である。どのように駐車場のセキュリティを実施しているのだろうか。名古屋市中心部の栄地域にあり、日本でも有数の100m道路、久屋大通の久屋大通公園下にあるエンゼルパーク駐車場を取材した。
「安全・安心で環境に優しい駐車場の提供と、地域社会の発展に貢献したい」と語るのは、エンゼルパーク取締役社長の伊奈達二氏だ。エンゼルパーク駐車場は、敷地面積延べ32,000平方メートル、駐車可能台数約850台という大規模公共駐車場だ。名古屋市の栄地区にあり、松坂屋と直結し、三越や丸栄、PARCOといった大型百貨店にも近いこともあり、毎日平均3,000台、毎月平均で10万台もの利用がある。
百貨店に近いという立地条件もあり、高級車の利用客も多く、高齢者や女性ドライバーも多い。このため、伊奈氏は、安全に安心して車を止められる駐車場作りに留意している。同駐車場の監視カメラシステムを担当しているのはエルモ社である。

エルモ社 名古屋支店 営業第三グループ マネージャー
伊藤元彦氏
エンゼルパーク駐車場がオープンしたのは1966年と歴史が古い。監視カメラはアナログタイプで50台設置していたが、伊奈氏は、安全を一層向上させるため30台を追加した。映像は管理事務所に設置したタッチパネル式モニターで確認できるが、駐車場内にいる誘導員も映像を確認できるように場内にもモニターを設置した。エルモ社名古屋支店営業第三グループマネージャーの伊藤元彦氏は「場内モニターにより、誘導員が死角を確認できるようになった。今後も古い監視カメラを高感度、高解像度のものにリプレイスし、セキュリティを高めたい」とコメントする。

監視カメラシステムのタッチパネル式コントローラー
伊奈氏が目指すのは環境や人にも優しい駐車場である。その活動の一環として、周辺公園の清掃活動や、エコキャップの回収運動などを行っている。エコキャップ運動は、回収したペットボトルのキャップ売却益でワクチンを購入し、世界の子どもの命を救うというもの。焼却せず再資源化するため、CO2の削減にも貢献する。「将来的には、場内照明を低消費電力のLEDにしたり、駐車場の上にある公園に花などを植えて自然を楽しめるエコパークにしたり、プラグインハイブリッドカーの充電に対応できる駐車場にもしたい」と展望を語る。

監視カメラシステムのタッチパネル式コントローラー
エンゼルパーク駐車場は、ハイブリッドカー「プリウス」の展示や、皆既日食観測用メガネの配布、8月8日にナンバーの末尾が8の利用者に回数券を配布するなど、様々な催事も行っている。ちなみに㊇は名古屋市の市章だ。ほかにも場内の飲料自動販売機の売り上げの一部を名古屋城本丸御殿の復元工事に寄付するなど、地域への貢献も積極的に行っている。セキュリティというと、防犯というイメージが強いが、安全や安心という意味もある。伊奈氏が語るように、利用者が安心して利用できる駐車場は、監視カメラや照明また車止めといった設備だけでなく、環境や地域との調和についても考慮すべきだろう。 (終)











