「a&s JAPAN」最新号より
近畿地方のセキュリティ市場
サブプライムローン問題に端を発した金融危機は、日本経済にも大きな打撃を与えている。そんな中、町工場が作った人工衛星の打ち上げ成功や大規模開発など、何かと話題が多いのが近畿地方である。近畿地方のセキュリティ事情について各社に取材した。
久保隆太郎
不況脱却を試みる近畿

パナソニック電工
電材マーケティング本部
電材商品営業企画部
情報機器商品営業グループ
ビルシステム商品営業チーム課長
村上和一氏
国内での上場企業の倒産件数は、2008年に過去最高を記録したが、2009年はそれを上回る勢いとなっている。不況は不動産業だけでなく製造業にも飛び火し、派遣労働者の大量解雇だけでなく正社員解雇にも広がり社会問題化している。不況になると良くも悪くもセキュリティ市場が活性化すると言われているが、今回の不況ではセキュリティへの設備投資を渋るほど企業経営が厳しい状態にある。ビルやマンションの建設が頓挫している事例も増えているが、それとは一線を画して推移しているのが近畿市場である。
近畿市場の現状と今後について、パナソニック電工電材マーケティング本部 電材商品営業企画部 情報機器商品営業グループ ビルシステム商品営業チーム課長村上和一氏は、「全国的に厳しい状況にあるが、近畿はベイエリアの工場や中心部の再開発など、2014年頃まで建設ラッシュが予定されている。汐留や六本木など東京の開発が終わった波が、近畿圏に来たのかもしれない」と語る。
村上氏によれば、近畿市場は、東京への一極集中や生産拠点の海外移転による雇用機会損失や地域産業崩壊といった空洞化現象を解消すべく、設備投資が進んでおり、代表的なのが大阪のベイエリアで、薄型テレビや太陽電池、半導体といったハイテク関連技術の集積地として注目されているという。堺市のシャープの液晶パネルおよび太陽電池工場や、尼崎市のパナソニックのプラズマディスプレイ工場、姫路市のIPSアルファテクノロジの液晶パネル工場などで、「パネルベイ」とも呼ばれている一帯だ。それ以外の地域でも、昔から食品関連など多くの工場があるという特徴がある。また、2009年1月には、「夢を打ち上げよう」を合い言葉に東大阪の町工場や中小企業が協力および開発した人工衛星「まいど1号」を積んだロケットの打ち上げにも成功している。
村上氏は、2011年春の完成を目指す21万㎡にわたる大阪駅周辺開発の「大阪駅開発プロジェクト」、2014年を目標に大阪市阿倍野区にホテルやデパートなどが入居する高さ300mのターミナルビルの建設計画など、近畿市場の活性化に向けた動きもあると語る。セキュリティ商品を担当している同氏は、同社が開発した統合型入退室管理システム「eX-SG」が、こうした施設で採用されることに期待を寄せている。
このように近畿には明るいニュースが比較的多いが、セキュリティ市場から見てどうなのかをカメラレンズメーカーであり商社であるCBCに聞いた。同社エレクトロニックデバイス&マテリアルズディビジョン 大阪E.D.Mグループ次長竹内祐司氏は、「比率でいうと、東京の4~5分の1程度ではないか」と評する。この理由として、大規模案件の場合主導権を握るのが本社であることが多く、大阪の案件でも契約は東京本社で行うことが多いことなどを挙げる。市場規模比率について他社にも聞いたが、同様の比率だった。全国にフランチャイズ展開をしている企業の場合、全国各地に設置した時でも売り上げは東京で計上することを理由に挙げている。このような事情も勘案すると、地域別に正確な市場規模を算出するのは難しいと言える。
しかし前述した通り、近畿地方では様々な開発が予定されており、今後の近畿のセキュリティ市場規模が拡大する可能性は高い。また2008年金融危機の影響による全国的な不況により、企業の設備投資の先行きが予想できない状況にもある。竹内氏は「この数年は右肩上がりで売り上げは増加していたが、今年は原点回帰の年だと感じている。より一層顧客ベースに考えていく必要がある」と述べる。
工場セキュリティ

CBC
エレクトロニックデバイス&
マテリアルズディビジョン
大阪EDMグループ次長
竹内祐司氏
関西市場には工場が多いため、工場向けのセキュリティの需要が高い。「パネルベイ」ではハイテク製品の製造が行われているが、内陸部や琵琶湖周辺には食品関係の工場も多く存在する。ジャバテル代表取締役佐々木宏至氏は、「最近関心が高い食の安全性確保のため、食品工場ではセキュリティは必須となっている。200台のメガピクセルを求められるケースもある」と語る。食品や薬品また化粧品などで異物混入があると、回収などで莫大な費用が発生するだけでなく、企業スキャンダルとなり、致命傷ともなりかねないからだ。
セキュリティとは異なるが、大手施工業者によると、発売後の商品においても不純物混入等が発覚した場合の事後調査のために、賞味期限にあわせ数ヶ月分の製造過程の映像を保存可能なシステムの依頼もあるという。
しかし、製造から流通までの全局面で同水準のセキュリティを実現しようとすると費用と効率性の問題が出てくる。食品製造工場や配送センターなどでどのようなセキュリティが必要になるのかについて、パナソニック電工ネットワークス マーケティングソリューションセンター松下浩二氏は、「食品製造工場には出入りする従業員は限られているため、頻繁な出入りや入れ替わりがなければ、最低限の入退システムと監視カメラがあれば済む。しかし、配送センターや倉庫では、季節ごとにアルバイトなど従業員の数が増減するので、映像と入退システムを連動させるケースが多い」と説明する。また、入退室の生体認証システムに関しては、「関東も関西も指紋認証が一番多い」(パナソニック電工村上氏)とのこと。
なお、ジャバテルの佐々木氏によると、工場の場合、現場の工場長が承認しない限りは、本社だけの決定では導入できない場合もあるとのことだ。
社寺のセキュリティ

パナソニック電工ネットワークス
マーケティングソリューションセンター部長
松下浩二氏
近畿地方はまた神社仏閣の多い地域でもある。歴史的に見て重要な国宝級の仏像も多い。最近では、寺から仏像が盗まれるといった事件も多発している。神社や寺ではどのようなセキュリティを導入しているのかについてオプテックスに取材した。同社は、防犯センサや自動ドアセンサ、測定機器などのメーカーである。同社執行役員 国内SEC事業本部長 東京営業所所長坂田憲史氏は、「神社仏閣の場合、最も力を入れているのが火災対策」と語る。基本として自動消火設備を設置するのだが、火災センサや赤外線センサを配置する際に、景観を損ねないよう配慮することも大切だ。このために、灯籠の中に設置することもあり、配線設置で建築物を痛めることもないように、ワイヤレス式に人気があるという。
火災設備の次には監視カメラの設置となる。防犯カメラの販売および設計、施工および保守を行い、京都に本社を置くケービデバイス代表取締役高杉政一氏によると、「仏像の盗難対策や万引対策」がカメラ設置の最大の目的である。ちなみに万引は、境内で販売されている御札などを盗むことで、観光寺の場合は結構な被害になるという。「一度に大量に盗んでいく人もいる」と高杉氏は語る。センサと同様カメラの場合も、和風建築にとけ込み、参拝客の目に触れないようにすることが大切となる。「ハウジングの色を黒や朱色に塗装したり、建築にマッチした形で設置するなど、細かいところがポイント。景色にとけ込ませるのは我々の仕事」と高杉氏は語る。また、同氏によると、社寺のほとんどがアナログカメラを採用している。
「安全なまちづくり条例」と「防犯優良マンション認定」

オプテックス
執行役員
国内SEC事業本部長
東京営業所所長
坂田憲史氏
「日本の統計2009」(総務省統計局)によると、2003年の戸建と共同住宅について、東京都の戸建が160万戸、共同住宅が370万戸となっている。一方、大阪府では、戸建が138万戸に対して共同住宅が186万戸と、戸建の割合は高くなっている。戸建へのセキュリティについて、オプテックスの坂田氏は「ほとんどがセンサライトで、防犯カメラ設置の割合は少ない」と語る。センサライトの場合、郊外に行けばいくほど売れているという。この理由として街灯が暗いことが考えられる。
近畿地方でも他地域と同様ホームセキュリティはセコムが最大手だが、関西電力や大阪ガスも既存インフラ資産を活用したサービスで参入している。近年は、ホームセキュリティの普及策として、新築住宅にホームセキュリティを警備料金込みでビルトインするケースが多いが、パッケージ契約から通常契約への切換時点で警備会社はサービスの真価で差が出ると言う。
関東地方と比較して戸建の割合が高い近畿地方だが、土地が限られている都市部では高層マンションなどの建設も進んでいる。多くの人が生活する都市部は犯罪の発生率も高く、大阪府のひったくりや自動車盗などの発生率は全国一である。犯罪の発生件数が高い大阪府は、警察や市町村また事業者などと連携して防犯に取り組むべく、2002年に全国初となる「安全なまちづくり条例」を施行した。この条例は現在では全国に広がっている。
NPO法人大阪府防犯設備士協会(大防設)副理事長平野富義氏は、自動制御機器や遠隔監視装置などの製造から施工までを行うエフビーオートメの代表取締役のかたわら、日本防犯設備士協会(日防設)の理事も長年務めている。日防設は、防犯の啓蒙以外に防犯設備士の資格認定を行っている社団法人である。平野氏は「これまで大阪は防犯設備士数が全国1位だった」と語り、その背景には高い犯罪発生率による、防犯意識の高まりがあることを説明する。
マンションに関するセキュリティ基準として、各都道府県単位で設定する防犯優良マンション認定(防犯優良マンション標準認定基準)がある。現在、全国規模で広がっているが、自ら認定申請の審査も行う同氏は「認定がないマンションよりあるほうが安全だが、犯罪を100%防げるわけではない。今後は、共連れに対する対策と防犯カメラの活用が肝要」と語る。「カメラの動体検知機能を利用して、マンションの入口に関係のない人物が来た際に警告を発したり、撮影映像を映像表示するなどを行えば、犯罪をもっと減らすことができる」と付け加え、既存環境を工夫してセキュリティを高めることが大切と指摘する。
ビジネスと価格の東西の地域差

ケービデバイス
代表取締役
高杉政一氏
関東と近畿を対比して「政治の中心は東京、商売の中心は大阪」と言うことがある。大阪人は商売人で値段に厳しいと一般に考えられている。事実、デパートで値切るのも珍しいことではなく、値切ってナンボという土地柄である。セキュリティ市場で他の地域との違いについて各社に聞いた。
CBCの竹内氏は,「とにかく値切られて大変だと聞かされて赴任したが、実際には西も東も大差はなかった」と大阪に転勤した当時を振り返る。同氏は「価格交渉において東京がドライに数字ありきとするならば、大阪はかけひきの部分がまだまだ残されている気がする」と語る。
またケービデバイスの高杉氏は、「関西人にとって、東京の言葉使いには冷たい雰囲気があるが、逆にきちんとしていると思う。大阪は『なあなあ』の部分があり親しみやすいとも言えるが、ダメと言ってくれないことがある。東京のけじめと大阪の『なあなあ』を合わせて仕事をするとうまくいく」と語る。
見積金額では関東でも近畿でも差異がないようだ。高杉氏は「関東の方がわずかに高めだが、他の地域では差はない」と語り、続けて「社員によって見積価格が異なると会社の信用問題になるので、きっちりと独自の積算基準を設定して個人の主観で価格差がでるのを防いでいる」と付け加える。大手施工業者の話でも、セキュリティ的に他社にはないお勧めの仕様を提案するが、最終的には仕様よりも金額で決まってしまうことは、どこの地域においてもあまり差はないようだ。
エンドユーザーへの提案方法に関しては、近畿地方の特徴が出ている。PoEスイッチやネットワークカメラなどを得意とするパナソニック電工ネットワークスの松下氏は「近畿地方エンドユーザーと設置施工業者との結びつきが強い」と語る。これは会社規模の大小を問わず当てはまり、ユーザーに対して設置施工業者と一緒に提案するケースが多くなる。関東でも設置施工業者とユーザーへの共同提案がないわけではないが、同氏によると近畿地方の方がこの傾向が強いという。
根強いアナログ需要だがIPの浸透も進む

大阪府防犯設備士協会
副理事長
エフビーオートメ代表取締役
日本防犯設備士協会理事
平野富義氏
また、こうした設置施工業者の多くは電気系が専門で、IPネットワークを専門としていないことも特徴として
挙げられる。松下氏は、「ユーザーがネットワークカメラに興味を持っていたとしても、つながりの強い設置施工業者がノウハウを持っていないことがある」と語る。このため、アナログカメラの再設置需要があった場合でも、アナログカメラを採用するケースが多いという。しかし、新築ビルや大規模ビルでの再設置、公共機関や金融機関などでは、必要要件としてネットワークカメラが求められることがある。「アナログに関するノウハウは設置施工業者が持っているので、ネットワーク関係に関しては自社、アナログ関係に関しては設置施工業者というような形で提案することが多い」と語る。パナソニック電工ネットワークスでは、市場の将来展望を考慮して、設置施工業者向けにネットワーク関連研修を行っている。
ネットワークカメラの需要の高まりについて、CBCの竹内氏も「去年から近畿地方でも工場などで中規模以上のIPカメラ案件は増えている。IPとアナログが違うのは、ユーザーの要望によって1メーカーでシステムを構築するのが難しい案件もあり、他社製品も含めた提案を連携して行っている」とも語る。
このように近畿地方市場は、世界的な不況の影響を受けているものの、若干明るい材料も存在する。関東に比べると近畿は市場規模が小さいが、「まいど1号」のような創意工夫で、不況を乗り切ろうとする熱意が強く感じられる。5年間の保守点検費を含めたサービスを提案したり、毎年の決算で利益が出た場合決算手当としてある一定の金額を社員に還元しているケービデバイスや、メーカーの枠を超えて総合的な顧客提案に取り組むCBCなどがその一例である。「不況だから会社の業績も悪いと言うのは経営者の怠慢」だと語る高杉氏の言葉に関西人企業の気概と底力を感じる。 (終)
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