電子決済・ICカード国際情報局【電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ】
第18回 乱立するNFCケータイ向け「Wallet」、普及の鍵を握るのは?
文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)
9月も彼岸を過ぎてからすっかり涼しくなりました。私は秋風が吹くこの季節になると毎年恒例の欧州視察の準備に追われるなど、忙しさが増してきます。
今回はいよいよ来月に開催の迫ったCartes展示会と、NFC関連の話題をお送りいたします。
今年の欧州視察のテーマは「NFC」、「スマートフォン」、「モバイルマネー」、「交通系」
欧州視察では毎年、パリとロンドンを訪れています。パリでは『Cartes & IDentification(Cartes)』展示会と、それに集まる関係者を当て込んで、通信キャリア、金融機関、交通系団体などと定例打ち合わせを行い、またロンドンでは金融機関およびUKPaymentsなどの決済系の団体と定例の打ち合わせを持ちます。昨年はニースのNFC準商用化プロジェクト、『Cityzi』も訪ねました欧州視察報告(1)フランス・ニースの「Cityzi」プロジェクトを訪ねて。
例年各事業者とのアポイントを、この視察の主催者でもある電子決済研究所の多田羅氏と分担して取るのですが、これには苦労があります。特に視察団は、短期間の滞在で出来るだけ多くの方とお会いするように設定するので大変です。
それでもここ数年は相手もお馴染みになり、
「もうそんな季節になったのですね〜・・・お会いするのを楽しみにしています」
などと、温かく迎えてくれる人が増え、有難い限りです。
元々この欧州視察は、金融系ICカードとモバイルコマースの世界情勢を調査する目的でスタートしました。総務省系の団体である(長い名前ですが)「社団法人電波産業会・高度無線通信技術委員会・モバイルコマース部会(視察開始当初はモバイルITフォーラム)」の活動の一環で、モバイルコマース、モバイルマネー、NFCなどに関する調査と海外事業者との交流の機会としての役割も帯びており、同委員会の構成委員(通信キャリア、メーカーなど)が必ず参加しています。
今年は特にCartesに際立つテーマが無い点が惜しまれますが、それでも「NFC」、「スマートフォン」、「モバイルマネー」、「交通系」の4つのキーワードを軸に視察を計画しています。NFCについてはフランスのNFC準商用化が、昨年のニースに加え北部のストラスブールでもまもなく開始されるとのことで、ニースのその後の状況も関係者にヒアリングする予定です。
また今回はロンドンのNFCトライアルの様子も伺う行程を考えています。モバイルマネーについては、NFC搭載Androidスマートフォンでの決済サービスも気になる動向です。
まだ少し先ではありますが、帰国後の11月下旬〜12月頃に、またこのコラムでご報告したいと思います。
図1 昨年のCartes 2010の様子
出典:『欧州視察2010』
NFCスマートフォン向け「Wallet」が乱立
さて、今月の話題もまたNFCで行きたいと思います。
最近になって決済アプリケーション(アプリ)を操作するためのWalletアプリを誰が提供するか、という問題がにわかに顕在化してきました。アメリカなどを中心に国際決済ブランド、通信キャリアなどがそれぞれ異なる独自のWalletをリリースしてきたのです。
Walletアプリとは、payWave、PayPassなどの決済アプリをはじめ、クーポン、バウチャーなどを収納するアプリケーションで、NFC付きスマートフォンで決済などのサービスを利用する際には不可欠なアプリです。最近になってこれが話題に上がるようになってきたということは、NFCの議論がこれまでの実装論などの下位レイヤーから、アプリケーションなどの上位のレイヤーにシフトしてきた証拠ではないかと私は考えています。そういう意味では、NFCが本格稼働に一歩ずつ近づいていく機運を感じます。
第16回の本コラム記事『NFC & Smart WORLD』が欲張りな展示会である理由 で、「Google Wallet」について触れました。もちろんこれはGoogleが提供するものですが、これに加えて最近は国際決済ブランドのVisaが独自のWalletアプリ(Visa Mobile Wallet)を開発しています。Google Walletには当初、MasterCardのPayPassのみが搭載されますが、将来的にはVisaのpayWaveも搭載予定となっています。ところがVisaは以前から独自のWalletを用意しており、もともとそれでNFCに対応しようとする予定だったようです。
そうこうしているうちに、アメリカでNFCを推進するISIS(通信キャリアを中心としたジョイントベンチャー)が、これまた独自のWalletを開発し、主要な携帯電話メーカー6社がそれを採用するというニュースが入ってきました。
図2 ISISのロゴマーク
(出典:「NFC Times」より)
この「Isis mobile wallet」には、Visa、MasterCard、アメリカン・エキスプレス(AMEX)、ディスカバーが決済アプリの提供を表明しており、MasterCard(PayPass)のみに対応するGoogle Walletに対する優位性を主張しているようにも見受けられます。こちらはGoogleが支配するGoogle Walletに比べて、より多くの事業者の支持を受けているのも事実のようです。
いずれにせよ、NFCを決済に利用する機運は高まり、これまでフランスのCityziで細々と商用化していたものが、巨人GoogleやアメリカのISISの参入により、より現実味を帯びてきたことは間違いありません。
WalletにはPayPass、payWaveなどの決済アプリの他にも、クーポン、ポイントなどの機能が組み込まれるので、今後利用者がWalletを選択する際にはクーポンやポイントに対応する店舗やECマーケットプレイスの存在が重要になってきます。以前にも述べましたが、今後EC大手のAmazon.comやeBayなどがECサイトのチェックアウト機能に加え、リアル店舗でも利用可能なWalletを打ち出してくる可能性も否定できません。
主要3 Wallet
・Google Wallet・・・MasterCardのみに対応。クーポン対応
・Visa Mobile Wallet・・・Visaのみに対応。クーポン対応
・Isis mobile wallet・・・Visa、MasterCard、アメックス、ディスカバー、クーポン対応
これら3つのWallet以外にも、フランスCityziフォンに導入されているWalletもあり、また今後日本でNFCスマートフォンがリリースされる際にも日本版Walletが用意されることが想定されます。
Walletの普及は、加盟店に受け入れられるかどうかが鍵に
このような状況になると、今後のWalletの動向が少し気になります。Google Walletについては第16回コラム『NFC & Smart WORLD』が欲張りな展示会である理由に少し述べましたが、Visa MobileWallet、Isis mobile walletの今後の計画はまだ不透明です。
とはいえ、今後はNFC付きスマートフォンを購入するといずれかのWalletが付いてくることは間違いなさそうです。決済アプリは通信キャリアや携帯電話端末、スマートフォンメーカーにとって重要な位置づけで、出荷時に「プレインストール(初期導入)」されるソフトとしての地位を得たようです。
しかし、スマートフォンの利用者はAndroidマーケットから好みのアプリをダウンロードして利用することに慣れ親しんできています。そのためプレインスール済みのWalletがあったとしても、別の好みのものをダウンロードして利用することも一般化してきそうです。そういう意味で、ISISのように主要6社の携帯電話メーカーから提供されるスマートフォンにプレインストールされることの意義は、実はあまり大きくないかもしれません。
潜在利用者の数から言えば、上記3種類の中でもGoogleが圧倒的でしょうが、それでも現時点では使える加盟店が少ない状況で(もちろん、Google Walletは簡易POS機能など全く別の機能を付加することで大きく成長する可能性はありますが)、まだこれからといった感じがします。Visa Mobile Walletも同様の理由で、利用者が好んで選択する理由が明確ではありません。
それでもスマートフォン自体は急速に普及が進んでおり、しかも今後その多くにNFCとWalletが付随してくるようになると、店舗側にもそれに対応しようとする機運が高まるでしょう。そうなると、これからは簡便性など利用者の選択理由もさることながら、店舗にとってより使いやすく受け入れやすい仕組みであることが強く求められるはずです。
日本では、クーポンなどを使いたい店舗がFeliCaの採用を望んでも、開発が難しく、費用がかさむなどの理由で思うように導入が進まないという悩みがありました。NFCはこの反省に立ち、「誰でも簡単に利用が可能」という方針で開発が進みました。そのため初期費用などの導入障壁も相当軽減されることが予想されます。
ですから、今後のNFCサービスの導入において、店舗(加盟店)にどのような「旨味(付加価値)」を付与できるかどうか、が成否の鍵になるように思います。
電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ プロフィール
多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
電子決済研究所 代表。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。
山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、(社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。













