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新・お店のバイブル【青田 恵一】

第10回「店づくりの原点と未来を求めて----「お店のバイブル」コレクション(2)」

2008年10月01日 このエントリーをはてなブックマークに追加

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(前回より続く)

 前回は既刊本中心であったが、今回は比較的新しい本から2冊選んだ。安土敏著『後継者』(ダイヤモンド社)と船井総合研究所編著・小野達郎監修『小売業・サービス業のための船井流・「集客」大全』( 同文館出版)である。

安土敏著『後継者』(ダイヤモンド社)

画像 傑作小説、安土敏著『後継者』(ダイヤモンド社 2008年)が刊行された。
 スーパーマーケットのM&Aをモチーフにした異色の小売ノベルである。主人公は、乗っ取り絡みで亡くなったらしい創業社長の長男----つまり"後継者" だ。この二代目、仕事よりゴルフに熱中しており、社内では「芝虫」というあだ名なまでついている。ここを突かれ、ご本人の知らない間に、提携先である大手スーパーから乗っ取りが画策される。この危急存亡の一大事を、一見さえない幹部と、その知り合いの大学教授が救わんと活躍するのが、小説のおもなストーリー。この教授というのが、女性、それも飛びっきりの美人で、コンサルタント顔負けの仕事をやってのける。
 買収をねらう大手スーパートップの悪役振りが、スターウォーズのダースベイダーよろしく、嬉しいほどに決まっている。緻密な策謀であちこちに落とし穴を掘り、逃げようがないほど、主人公のチェーンを徹底して追い詰めていく。帝国に攻撃される正義軍。手に汗握る、まさにスターウォーズの世界である。
 ここも見どころだが、お店の人にとり一番となると、大学教授による味方店のクリニックと敵店舗の分析であろう。ここが、いかに具体的で、いかに詳細か。たとえば味方店のクリニック報告の最後でこういう。

従業員の身だしなみも悪い。生鮮食品関係の従業員の白衣は汚れているし、レジの女性の髪の毛が長過ぎる。レジの清算作業の動作が遅いし、商品名と価格の読み上げもできていません。レジの女性は清算の最後に頭を下げていますが、そのときにお客様の目を見ていません。全体に従業員がお客様の動きに無関心です。つまり、私がスイングプレーンと呼んだものが作り出した売り場の状態が崩れているところは、まだまだいくらでもあります(p237〜238)。

 これらの発言でわかるように、教授の目は、つねに店と売場の基本に注がれている。ついで大事なのはリズム、という話に触れながらこうつづける。

1万品目に近い商品を、品質的にいつも完全にいい状態を保ったまま品切れさせないでおく。言葉にすればそれだけのことですが、これは非常にむずかしい。なかでも、1万品目のなかにある1000品目ほどの生鮮食品について、その鮮度を最高に保ちつつ、あるべき商品を1品たりとも品切れさせないようにするためには、非常に優れた仕組みとそれを動かす高い技術が必要です。私がスーパーマーケットにリズムが必要だと言うのは、そういう仕組みや技術のことを指しています(p243)。

 ここでは、基本を維持するリズムの必要性が説かれている。なんにつけ主人公が、店の経営をゴルフに例えて理解するシーンは、「ゴルフが身を助く」ともいえ、関心を持たされた。
 著者のスタンスは、引用でもわかるように、明確過ぎるほど明確だ。標準化し過ぎて、お客さまのニーズに、きめ細かく応えにくい大型スーパーと、その反対に、一つひとつの売場、とりわけ生鮮三品において、顧客第一の観点を徹底し、ノウハウを持つ中小スーパー。
 この対立の構図において、もちろん著者は後者サイドに立つ。いままでの著作で、これでもかというほど徹してきたテーマを、ここでは小説の形を借りて最大限主張している。その意味では、2006年に刊行された『日本スーパーマーケット創論内食提供ビジネスのマネジメント』(商業界)と併読すれば、著者の信念なり思想が、さらによく伝わると思われる。
 最後に後継者は、ある戦法で勝負に出る。で、どきどきハラハラがつづく小説の結末は?というと、たぶん皆様の予想通りとは思うが、やはりそれは、読了してからのお楽しみ! ちょっとだけロマンスがあったりするのも、熱い戦いに彩を添えている。

船井総合研究所編著・小野達郎監修『小売業・サービス業のための船井流・「集客」大全』

画像 本書、船井総合研究所編著・小野達郎監修『小売業・サービス業のための船井流・「集客」大全』(同文館出版2008年)は、400ページもの厚手の本である。しかし、ただ厚いだけではない。船井総研が総力をあげて取り組む、集客の総決算書なのだ。集客の総事典とも思えるが、そういってしまうと語弊があるかもしれない。事典にしては意外に読みやすいからである。
 大きくは4部構成。
 第 I 部の「集客に欠かせない七つのポイント」を皮切りに、第II部がチラシ作成実務の基本や販促計画の基本、顧客管理の基本を教示する「集客の基本」、第 III部が、チラシ、DM、POP、ファサード、ミニ集客ツール(割引チケット、名刺、マグネットなど)の「集客ツール別手法」、そして最後の第・部が、イベント、キャッチコピー、クチコミ、ドアコールなどを説く「集客実践手法」というように、各項目が詳しく解説されている。総論、基本、各論、その実践という自然な流れである。
 第 I 部の「集客に欠かせない七つのポイント」とは、安さ感、安心感、お値打ち感、お得感、限定感、特別感、親近感という7つのことであり(p18)。ここは、とっくり当たっておこう。

 各論で興味を引かれたのが、他の本ではあまり言及されないドアコールのテーマである。せっかくなので、この件をすこし学びたい。
 まずはドアコールの必要性から。ショッピングセンターの出店により、専門店の売上が、昨対「60%まで減少」する例が相つぎ、その結果、閉店が増えている。広告の反応率も落ち込み、5万枚の折込みに対し10人しか来ない例もあったとか。この苦境を脱するため、いまスポットを浴びているのが、まさにこのドアコールなのである。ドアコールとは

この手法は、1軒1軒お客様のお宅を訪問し、特売の告知、イベントの告知を行っていく手法である。直接お客様にチラシを手渡しするため、確実にチラシをお客様の目に触れさせることができる(p389)。

 しかしこの手法は簡単でない。そこで実施のコツが披露される。在宅率が高い土日の午前中から午後1時までに、たくさんの軒数を回ること。はじめに店の場所と名前、自分の名前を伝え、怪しい者ではないと示すこと。イベントの告知ならその内容を伝え、「玄関先までお願いします」と話すこと。このうち「玄関先まで」と語りかけることは、とりわけ重要となる。なぜならその一言で、ドアコールの成否を決める手渡し率が、大きく変わるからである(p390〜391)。
 つぎは、ドアコールを、どのくらいの範囲でおこなうのか、という問題に移る。本書は、売上の8割以上を占めている、店の一次商圏内と教示する。この出し方が独特。

船井総研ではこの一次商圏を、最大商圏(自店の顧客のうち、もっとも遠くから来店している顧客の住むエリア)の半径の0・41倍と設定している。たとえば、最大商圏が1・5kmと設定している店舗の場合、1・5km×0・41≒半径約600mまでが一次商圏となる(p392)。

 ドアコールは手間と時間が掛かる販促だ。では、どの程度回ればいいのか。といえば、1時間に、都心なら30〜40軒、地方では15〜20軒くらいという。1日8時間としても、ひとり120〜320軒。詳しくは本書を当たってほしいが、ここからドアコールできる「実現可能な数字」として、2000〜5000世帯が示される(p392)。そのあと、スケジュール設定と実施計画書、実施準備、把握すること、集客目標とコスト、注意点、成功事例、この手法でのシェア拡大手法、応用事例、実施・継続可否基準などについて言及されていく。
 実施のさいは、従業員との信頼関係を深めるためにも「パートやアルバイトだけに任せきりにせず、店長または社長自らドアコールを実施することをおすすめする(p395)」という指摘もある。
 ツールとして、割引クーポン券やプレゼント引換券などを透明袋に入れたチラシ、不在や在宅などをわけて記すための筆記用具3種、チラシを入れる袋、お客さまからの質問やクレーム時に連絡するための携帯電話、にわか雨に備える雨具などと、きめ細かくあげているのが実践的。
 399ページの図には、効果測定の数字が公表されている。新聞折込みの0・7%〜0・8%、ポスティングの1〜2%に対し、ドアコールは、なんと15%以上の高率である。そういえば、目標のところに「ドアコールは、手渡しが成功した世帯の30%近くが来店(p400)」すると記されていた。
 ドアコール後の心がけとして、再来店を促すこと、その方法として、イベント時に次回割引クーポン券を渡す、ポイントカードまたはポイントシール、(p407)など4項目が指南される。
 ほかのテーマも、具体的、かつ豊富に記述されており、日常的に手元に置いて、ひも解きたい1冊である。

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青田 恵一 プロフィール

新・お店のバイブル

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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