栽培環境をコンピューターで管理する「植物工場」が広がり、消費者の間でも洗わずに食べられる葉物野菜などが身近になってきた。ハイテクを駆使した新しい農業のスタイルだけに関連技術などの波及は大きそうだが、コストや生育環境面の課題はないのだろうか。日経ヴェリタス記者に聞いてみよう。
三菱ケミカル、水使用9割減
植物工場の生産システムなどで企業の参入が相次いでいますね。
完全密閉した建物の中で、光や湿度などすべての育成環境を人工制御する技術を持つ企業に、エスペック(6859)があります。子会社のエスペックミック(愛知県大口町)は空気や温度、光、栽培指導など全体をコーディネートして「植物生産システム」として販売しています。価格は25平方メートルで1500万円から。本業の環境制御技術を植物育成の環境に転用しました。「イスラエルや中東、シンガポールなどから引き合いがある」(エスペックミックの中村謙治環境モニタリング事業部部長)といいます。
半導体工場などの環境制御で実績のある朝日工業社(1975)は、千葉大学などと共同で、花粉症を防ぐ米の栽培環境制御など医薬・バイオ分野向けの植物工場を、大きな商機ととらえています。
三菱ケミカルホールディングス(4188)傘下の三菱化学は太陽光発電パネルを用い、水も循環させ従来の10分の1の水で栽培できる環境負荷が小さい植物工場をパッケージで開発しました。土の10分の1以下の軽量培地を子会社を通じて開発した丸紅(8002)は10月、大阪本社内に植物工場のショールームを設けました。根菜類も栽培できる強みを生かし、中東など向けに販売、「5年後には40億円」(機能化学品部・藤原澄久担当課長)の事業に育てる目標です。
ただ、太陽光を使ったハイテク菜園で年間1.3万トンのトマトを出荷するカゴメ(2811)は、「果菜は太陽光に頼る部分は大きく、完全密閉型の工場で生産するのは難しい」(佐野泰三常務執行役員)と指摘します。自然の恵みを、人工の設備で完全に代替できるようになるにはまだ課題があります。
岩崎電気、光強いHID強み
その中で、特に注目されている技術は何ですか。
植物工場では、太陽光に代わる光の強さや質が重要な要素です。
発光ダイオード(LED)専業メーカー、シーシーエス(6669)はLEDを使った植物工場の開発に力を入れています。光合成を促す赤色の明るさが従来の5倍出せるなど、高機能LEDの開発でリード。株価も年初来の上昇率が3割を超えます。
同社の子会社、フェアリーエンジェル(京都市)は本棚のように栽培棚を何層にも重ねた多段式栽培システムを用い、レタスなどの葉物なら30日超で計画出荷できるまでに栽培できるようになっています。
エスペックミックのブースで使われている光は昭和電工(4004)や岩崎電気(6924)のLEDや蛍光灯、高輝度放電(HID)ランプです。昭和電工は光合成を促す赤色を強めたLEDを開発。LEDはランニングコストも低く注目されます。ただ、まだ高価なうえ光が弱く、葉物野菜には使えても、トマトや稲では足りないのが実態で実用化に向けて一段の進歩が期待されています。
岩崎電気が強みを持つのが、白色LEDより光の強いHIDです。岩崎電気の米子会社はカナダの農場向けなどで年間10億円の農業用光源を販売しています。岩崎電気は「10平方メートルで1500万円」からの植物工場の販売に加えて栽培指導も手掛け、より踏み込んだ形で農業に携わる考えです。
安定供給なら「大化け」も
コスト面だけでなく、普及には栽培した野菜を安定的に販売する仕組みも必要なのでは。
「植物工場が急成長するには『出口戦略』が必要」と指摘するのは野村総合研究所の森光弘上級コンサルタントです。ここでいう「出口」とは、まとまった量を安定的に消費者に販売するルートを指します。
例えばイズミヤ(8266)やイオン(8267)は、すでに植物工場で栽培した野菜を扱っています。キーワードは「洗わずに食べられる」手軽さや安心だといいます。定食チェーンの大戸屋(2705)はサラダに使う野菜を自社工場で生産しており、第2工場も来年に稼働します。
中東やカナダ、ロシア、シンガポールなど海外に目を向けている企業も少なくありません。ただ野村総研の森氏は「冷凍・加工工場や倉庫など、食品流通のインフラを整える必要がある。植物工場単独の展開は難しい」と話します。
植物工場の研究は20年以上も前から進んでいましたが、「露地栽培ものと比べてトマトは10倍、米は40倍」といわれるほどコストが高く、それが普及のネックになっていました。
最近は、生産効率が上がったほか、太陽光発電の併用などでコストが下がり、レタスなどの葉物野菜では採算ラインに乗るようになってきました。閉鎖した半導体工場などの転用事業としても期待されています。植物工場が、一般的な工業製品の工場のように広がりを見せていけば、食物自給率の引き上げ、新たな農業の担い手確保など、様々なプラスの面が生まれる可能性があると考えられているのです。
2025年には世界の人口が80億人を超え、食料不足が指摘されています。寒冷地や乾燥地などでも農業を可能にする植物工場には光や太陽光発電など日本のハイテク技術が多く使われ、「ニッポンの農業」が世界的に注目される可能性もあります。(清水桂子)








