商空間デザイン最前線(日経デザイン編)【守山 久子】
第56回「交流の場となる書店を備えた出版社 〜SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERS」
東京・渋谷区の東急百貨店本店の横から東京メトロ千代田線代々木公園駅へ向かう神山通りは、昔ながらの商店街という性格に、ギャラリーやカフェのような新しい顔が加わりつつある一帯だ。「SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERS」は、そんな通り沿いに建つビルの1階にオープンした。

外観
「一言でいえば、小売店の機能を備えた出版社」と、SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERSの業務執行代表者を務める福井盛太氏は説明する。
出版社としては若木信吾作品集「JAPANESE ACTOR」の第一弾「ASANO TADANOBU -OFF SCREEN」を発売し、第二弾を進行中。オリジナル雑誌の創刊準備にも取り組んでいる。またウェブサイト上では古田敦也氏による対談の連載記事も始めた。
一方、書店として、年代ごとに分類したディスプレイ方法を採用しているのが特徴だ。1940年代から2000年代まで10年ごとに区分して書籍を並べている。
例えば90年代のコーナーには「風の谷のナウシカ」や中島らもの文庫本などが並ぶ。2000年代には、「佐藤可士和の超整理術」、「下流社会マーケティング」、「すぐそこにある希望」など。写真集もある。
ブックディレクションは、国立新美術館ミュージアムショップや「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」などを手がけるBACHの幅允孝氏が担当した。ジャンルは多彩だが、並んだ書籍を眺めていると、そういえばこの時期こういうことがあったなと思い出してなかなか面白い。

写真左:書店内部。2つめのデスクの奥が編集部/写真右:書店のカウンターまわり
内部空間を見ていこう。
道路に面して全面ガラス張りとなっている室内は、奥に細長い長方形をしている。道路側の約100平方メートルが書店スペースだ。天井は高くないが、梁を隠さずに躯体をそのまま見せることで、空間を広く見せている。
壁や天井を白一色で仕上げた室内の壁沿いに書棚が並び、中央には木の大きな細長いデスクが二つ置かれている。デスクの上には、雑誌や書籍が展示してある。
時代ごとに分類した本を展示する書棚は、白い塗装で統一されている。ただし、一つひとつの棚のデザインは異なる。実はこれらも、その時代につくられた棚を集めたものだという。
一方、ガラスで区切られた奥の部屋は、編集作業を行う出版機能のスペースだ。細長い部屋の中央には、店内のデスクの延長戦上に3個のデスクを一直線に並べている。
オフィスの奥の壁は一面が鏡になっている。鏡にはオフィスと隣接する書店スペースが映り、一番奥に明るい開口部が見える。
うなぎの寝床のような細長い空間は、鏡によって距離感が増幅される。また、本来外光の入らない奥のスペースに、路面からの光が映り込む。反射による虚構の像と、明かりがもたらす心地良さというリアルな感覚が織り交ぜになった不思議な空間だ。

1つずつデザインの異なる書棚

写真左:年代を示したディスプレイ/写真右:横にある小スペース。大型書籍などを並べている
SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERSは、欧米にあるような個性的な書店を開いてみたいという福井氏の願望が出発点となった。
「2003年、ニューヨークに住んでいたとき、ニューヨークのダウンタウンには面白くて活気のある本屋がたくさんあった。棚の編集方針は千差万別だけれども、それぞれ店主の個性が前面に出ていて格好いい。文化の発信機能という役割をしっかり担っていてうらやましかった」(福井氏)。
ひるがえって日本の場合、文化の発信という意味ではアパレルの店舗やミュージックショップなどが中心となり、書店の存在感は薄い。もともと編集者として活動していた福井氏は、本をつくりながら書店を自分でやってみたいという気持ちがふつふつと沸いてきた。
編集部と書店を共存させるというイメージは当初からあった。ただし、店の入る箱が決まらなければ話は進まない。昨年の4、5月から不動産物件を探し始めた。
原宿や代官山など若者への発信力の高いエリアをまず探したが、家賃の高さから断念。「文化度の高さと賃料の安さ」が共存する地域へ目を転じ、Bunkamuraで観劇した帰り道にたまたま見つけたのが現在の物件だった。福井氏は10年以上前に近くに住んでおり、神山通りもよく歩いていた。土地勘があり、肌感覚としていいなと思える場所だったので、すぐに申し込んだ。
その後、いくつかの経緯を経てNAP建築設計事務所の中村拓志氏に設計を依頼した。「表から編集部と書店の両方が見えること。編集部から書店が見え、書店からも編集部が見えること。抜けのある広い空間にすること」。3つの要望を中村氏にぶつけ、やり取りを経て生まれたのが現在の空間だった。

編集スペース。奥の壁は鏡張り
スタッフは少数精鋭。福井氏のほか、編集担当者、総務担当者、書店責任者がそれぞれ一人という布陣をとる。加えて数人のアルバイトで切り盛りしている。
オープン後、書店の月商は400万〜500万円前後を記録している。客単価が3000円を超える日も多いという。事業計画を上まわる順調なスタートだ。ただし、意外に遠いところからの客が多く、地元客の比率が予想より低い。「地元客の開拓がこれからの課題」と福井氏は話す。
一方、福井氏自身驚いたのは、様々な人の交流が生まれていることだという。店に客が来るというほかに、編集部へ企画を持ち込む人が予想以上に多い。人が集まる書店という具体的な場所を備え、しかもガラス張りのため何の作業をしているか分かりやすいことが、こうした動きを生む大きな要因になっているのだろう。
顔が見えないネット上のやり取りで多くの物事が進められるようになった社会にあって、 SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERSの試みは、"お互いの顔が見えるリアルな場"が果たす役割の重要さにあらためて気づかせてくれる。
(守山久子)
■SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERS:http://www.shibuyabooks.net/
渋谷区神山町17-3 テラス神山1F
(TEL:03-5465-0577)
営業時間 12:00〜翌2:00
無休













