商空間デザイン最前線(日経デザイン編)【守山 久子】
第61回「重層配置の都市型シネコン〜新宿ピカデリー」
208年7月、東京・新宿に新たな映画鑑賞の拠点が誕生した。旧「新宿松竹会館」の建て替えに伴い、松竹が「新宿ピカデリー」をオープンした。10スクリーン、2237席を擁する大型施設は、最近増えてきた都市型シネマコンプレックスになる。夏休みの喧噪を終えた同館に足を運んだ。
新宿ピカデリーは靖国通りに面し、紀伊国屋書店などに近い便利な立地に登場した。7月14日に「カンフー・パンダ」のジャパンプレミアを開催、7月19日にオープンしたシネマコンプレックス(以下、シネコン)は、これまでにも様々なメディアに取り上げられてきた。

写真左:靖国通り側の外観
写真右:エントランスの大階段。右側に無印良品の店舗が入っている
3層吹き抜けのエントランスまわりに設けられた白い大階段は、プレミアショーではレッドカーペットを敷ける舞台にもなる。館内最大のスクリーン1(607席)は、プライベート型バルコニー席のプラチナルーム(全2室、1室3万円)とバルコニー席のプラチナシート(1人5000円)を備えている。
プラチナルームやプラチナシートの客には、待ち合い時間のための個室またはシネマライブラリーなどを用意する。ここではウェルカムドリンクのほか、シャンパンやワインを頼める。
一般客が利用するエントランスや3階メインロビーは、ピュアホワイトをイメージカラーに用いた明るいデザイン。女性客を強く意識したものだ。柱にはめ込んだ液晶ディスプレイや吹き抜け空間に設置した大型ディスプレイが、映画館の入り口らしい華やいだ雰囲気をもたらしている。
近くの新宿3丁目駅には、2007年2月にオープンし、ティ・ジョイとTOHOシネマズが共同運営する9スクリーンのシネコン「新宿バルト9」が建っている。新宿歌舞伎町の既存映画館群もある。1年の集客目標を150万人と想定する新宿ピカデリーの登場は、新宿エリアの映画館利用客の流れを大きく変えると予想されている。

エントランスと3階メインロビーを結ぶ吹き抜けとエスカレーター

写真左:3階メインロビー/写真右:プラチナライブラリー+プラチナクラブカフェ

プラチナルーム利用者のための待合室
以上が、新宿ピカデリーの大まかな特徴といえる。ここではさらに、建物のもつ特徴について触れてみたい。
シネコンはもともと郊外型の施設として生まれた。日本では90年代に導入され、その後、「TOHOシネマズ 六本木ヒルズ」(港区)や「ユナイテッド・シネマ豊洲」(江東区)、先に触れた「新宿バルト9」など、都区内にもシネコンが相次いでオープンした。
これらのシネコンでは通常、10前後のスクリーンを1フロアまたは2フロアに配置している。それに対し新宿ピカデリーでは4階に1つ、7階に2つ、9階に3つ、11階に4つと、スクリーンを4層に分散している。しかもメインロビーは3階、プラチナルームやプラチナシートは5階にある。
つまり新宿ピカデリーは、限られた面積の建物内にスクリーンやロビーを積み重ねた"都市型重層シネコン"という新しい建物タイプなのだ。
スムーズに客を移動させる動線計画が重要なポイントとなるシネコンにあって、重層構造の建物は通常以上の工夫を要する。
例えば、上下の動線はどうなっているか。
プラチナシートやプラチナルームへのアプローチは入り口から明確に区分している。一方、一般客の場合、3階のメインロビーから最上階の11階まで10のスクリーンへの動線は、靖国通り沿いに設けた1カ所のエスカレーターが中心となる。
ここでは、一般のシネコンよりさらに注意深く各スクリーンの上映時間を設定することで出入りする客が重ならないようにし、よどみなく人をさばくようにしている。

写真左:エスカレーターを下りて奥正面のチケットカウンターを見る
写真右:チケットカウンターの右に続くコンセッション

イタリアンデザインの丸いチェアを並べたメインロビーカフェ。
奥右にスクリーン入り口、左にストアが並んでいる

写真左:スクリーンへの入り口/写真右:映画関連の商品を販売するストア
3階メインロビーの動線処理も、時計回りの一方通行を促せるように工夫している。
1、2階のエントランスから吹き抜け内のエスカレーターを上がって3階にたどり着いた客は、右側へ180°折れる。すぐチケット販売の自販機があり、奥の正面にチケットカウンターが延びる。チケットを購入し、カウンターに沿って右に進むとデニッシュやクロワッサンを扱っているコンセッション(売店)が続く。
さらに右に曲がると色とりどりのチェアを置いたメインロビーカフェ、その先にスクリーンへの入り口とエスカレーター、映画関連商品を売っているストアが並ぶ。
ここで重要な役割を果たすのが、中央の吹き抜け空間だ。吹き抜けの3辺を伝うように歩いてもらうことで、前述した時計回りの動線を自然に誘導できるようにしている。
一方、映画を見終えた客は、逆向きのエスカレーターから下りてくる。目の前のストアに出迎えられ、その後は、吹き抜けの残りの1辺を通ってエントランスに続くエスカレーターへと向かう。ストアとスクリーン入り口まわりで行きと帰りの客は一瞬交錯するが、あとは両者が交わらないような一筆書きの動線になっている。

写真左:7階エスカレーターロビー。女性を意識した柔らかい雰囲気の「*(アスタリスク)」付きサインを用いて各スクリーンの階構成を示している
写真右:客席への入り口まわり
新宿ピカデリーは靖国通りと紀伊国屋書店に面した通りにはさまれ、両側に入り口を設けている。2つの通りは高低差をもつため、靖国通りに面した入り口が1階、紀伊国屋書店側の入り口が2階に当たる。エントランスは、この段差部分を大きな階段で結んだ吹き抜け空間となっている。敷地条件をうまく活用した設計は、松田平田設計によるものだ。
大階段に隣接した2階、1階と地下階には「無印良品」の店舗が入っている。無印良品、大階段、3階ロビーは吹き抜けでつながり、空間の一体感を強めている。
重層構成とオープンな空間をもつ新宿ピカデリーの建物は、都市型シネコンの1つのプロトタイプになるのだろうか。意欲的な試みであることは間違いない。
(守山久子)
■新宿ピカデリー
東京都新宿区新宿3-15-15
TEL:03-5367-1144
営業時間 9:00〜23:00(上映によって時間は異なる)
無休













